Atelierラ部

ラーメン業界での、デザイン、イラストレーションなどに関するブログです。

2019年10月

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「ラーメン 凪」1周年Tシャツ/2007年6月


わたしがまだ、ラーメンのお仕事をする前のこと。仕事の合間にラーメンのイラストレーションの制作をしていました。仕事でも趣味でもなく、ただただ創作欲の赴くままに作ってみたくなったのです。そしてそれが完成したとき、その柄のTシャツが欲しくなりました。友人がアイロンプリントにしようと勧めてくれ、ふたりでその足で用紙を買いに行き、自作して着ていたのです。


さらに、そのTシャツを面白いと言ってくれた別の友人が、業者さんを紹介してくれ、売り物として販売することになりました。ただこれにはひとつ問題があったんです。元々の動機がビジネスではなく、ただの創作欲からだったため、各ラーメンの店主さんに了承をとっていなかったこと。販売した数も微々たるものですし、ラーメンの外見に著作権(肖像権?)はないのですが、それでもラーメン好きのひとりとしてはとても後ろめたかった。またいつか販売できるなら、そのときはきちんと許可をとって販売しよう…と決めていました。


そんな思い出話を生田さんに話してみたところ、「それうちで作ろうや!」と言ってくれ、渋谷店の1周年記念として制作することになったのです。先述したとおり「許可を取っていないこと」が問題でしたので、生田さんはこの企画に賛同してくれそうな店主さんに声をかけてくれました。生田さんが当時仲良くなっていた有名店主や、彼のお弟子さん、あの「博多一風堂」の河原社長にまでご賛同いただきました。


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ご協力いただきました店舗:(左上から順に)「博多一風堂」「ラーメン きら星」「季織亭」「五行」「秀」「なんつッ亭」「麺の坊 砦」「らーめん愉悦処 鏡花」「支那そば きび」「せたが屋」「初代けいすけ」「麺処 くるり」「麺劇場 玄瑛」「麺や 優」「らーめん屋 鳳凛」「七重の味の店 めじろ」「虎」「博多 新風」「塩らーめん あいうえお」「ラーメン凪」「樹」「ぷりん屋」「麺歩 バガボンド」「負死鳥カラス(現:不死鳥カラス=浅草開化楼)」「ラ部」「ブレンバスタ」。


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裏面には各店のロゴを並べました。表側のラーメンがどこのラーメンなのか、答え合わせできるのです(それ以外のロゴは、関連業者や生田さんとつながりのあるお店のもの等です)。

この「ロゴを並べる」という形、他の業種にはあったと思いますが、当時のラーメン界では、グループとかコラボのような形式がほとんどなかったので、「これがラーメンTシャツのスタンダードになった」と言ってくださる方もいます。それくらい、インパクトがあったということですね。実現させてくれた生田さんに感謝です。


実はこのTシャツ、サントリーの缶コーヒー「BOSS」のポスターに載ったことがあるのです。「BOSS」の企画で、様々な職業の男性(主に職人さん)の写真が街中や駅に貼られました。ラーメン店員としては「凪」の西尾さんがこのTシャツを身に着け、トミー・リー・ジョーンズとともにポスターになったのです。自分の小さなアイデアが様々な人の手を借りて形になり、そして広く世間に見てもらえたというのは感慨深いものがありました。


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小さいものしか残っていないのですが、駅で撮影した画像を貼っておきます。ポスターには西尾さんの言葉も記されています。

「厨房の中は、いつも夏。夏だと気温70度。やばいです。」

当時、渋谷店の厨房は本当にそんな状態で、温度計が熱で歪んでしまったほど。熱中症の危険があるので一時期休業していたくらいでした。


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「ラーメン 凪」店舗イラストレーション/2007年1月(2009年修正版)


創業店となった渋谷店の見取り図(俯瞰図)のイラストレーション。お店の作りが独特なので、出入り口等がわかりにくいため「店内案内図」として制作したものです。


まず店舗に出向いて100枚以上の写真を撮影し、お店にあるすべての要素を書き出しました。ラーメンも具のひとつひとつまで作り込んでいますし、寸胴鍋やフライパン、ラジカセ、電話機、箸置き、薬味入れ、グラスやタッパー1つに至るまで完全に再現しています。人物も60人以上制作。当時の主立った店員さんのほか、常連の皆さん、凪にゆかりのある有名店主の方々は似顔絵として制作しています。細部まで描いているので、横幅1mくらいのポスターとして拡大すると、最も楽しめるはずです。


これは今までのラーメン仕事で最も手がかかりました。実作業だけで1ヶ月ほど費やしています。「凪」の社員さんが、知り合いのデザイナーから「100万円くらいかかったでしょ?」と訊かれたそうですが、もしこれが企業広告ならば、それくらいのギャラになるでしょう。


「凪」側でも気に入ってくださり、まず常連様に送られた感謝ハガキ「ALWAYS THANK YOU」に転用。それから数年間、折に触れて利用されました(年賀状・チラシ・ポスターなど)。そのたびに人物などを追加しましたが、ベースをしっかり作り込んでいるので、箱庭やドールハウス的な楽しさがありました。2009年に「創業時店舗図」として仕上げたところ、「凪」からパネルにしたものをいただきました。10年経った今でも仕事部屋の壁に飾ってあります。


「創業時~」とあるように、店内は何度もリニューアルされました。現在では客席のカウンターもなくなるなど、店内も様変わり。すでに退社・独立された店員さんも多いです(当初のイラストレーションでは、制服姿で店内に描いていた方も、最終稿では私服で店外を歩かせてみたり…)。

制作してから、もう10年以上の歳月がすぎてしまいました。このイラストレーションを見るたび、当時の騒がしい「凪」の雰囲気が蘇ってくる気がします。


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「ラーメン 凪」ロゴタイプ/2012年7月


「凪」の、大まかなロゴデザインの変遷をご紹介するため、年代は飛び飛びでご紹介しています。


「特級中華そば」のためにリニューアルさせた「凪」のロゴマークでしたが、その後「凪」の新しい展開とともに、リニューアル版の使用頻度が上がっていきました。その時々に応じて、色、レイアウトなどを変化させていたのです。

そして「特級~」から数年後の2012年、ブランド全体のシンボルとするため、最初のロゴと同じく、キンアカでのデザインを確定しました(詳しい制作意図は「ラーメン凪」及び「特級中華そば」をご参照ください)。ちなみに店舗だけでなく「株式会社 凪スピリッツ」の社章もこのデザインです。


今ではほぼわたしの手を離れているため、現在の「凪」では必ずしも絶対的なコンセプトカラーとして設定されていません。「池袋西口店」や「五反田西口店」、「川口東口駅前店」では、木目調の看板に金色でレイアウト。

本来なら統一すべきですが、それでも機能しています。これはデザインのオリジナリティと、使用開始から10年以上の期間が経っていること、オリジナルカラーのほうが数として上回っていること…などの理由から、少々扱いを変えたくらいでは印象が損なわれないのだと思います。


創業当初のロゴには左側もしくは上側に「ラーメン」の文字を付属させていましたが、現在では「凪」だけで通用します。これはなんでもないようでいて、かなり凄いことなのです。少し、余談で説明します。


コーヒーチェーン「STARBACKS」が、2011年に円形のロゴマークから店名と「COFFE」の文字を取ってしまいました。スポーツブランド「NIKE」も、1995年に初めてロゴマークからアルファベットをはずし、曲線のマーク:Swooshだけで表示させた。その後、印象的に使われるときほどSwooshのみになりました。


「STARBACKS」が文字を取ったとき、ネット上やわたしの友人たちは「以前のほうがいい」という文句・非難ばかりでしたし、ビジネス的に失策だという記事も読みました。好みは個人の自由ですが、デザイン的、マーケティング的には完全に的はずれな意見です。


文字を取って、マークだけにするということは、その会社・ブランド自体が、ロゴマークとともに〝メジャー化〟した証です。「セイレーンがデザインされた緑色のマーク」を見ただけで、世界中の人が「STARBACKS COFFEE」だとわかる。「勝利の女神・ニケの翼をモチーフにしたSwoosh」をひと目見れば、誰でも「NIKE」ブランドだとわかるのです。

そこに文字を入れて説明するというのは、簡単に言うと〝野暮〟なんですね。何年も付き合いのある人が、いつまで経っても「はじめまして、◯◯です」と自己紹介してくるようなもの。「知ってるよ(笑)」という話です(文字のほうにビジュアル面の工夫や仕掛けがある場合は除きます)。


「凪」の話に戻りますが、まだまだマークの横に「煮干・拉麺」「ラーメン・煮干王」などとついているものが主ですが、歌舞伎町にある「新館」は、完全に「凪」マークだけ。しかもマークから「nagi」を取ってしまい、下に「NAGI」と表示させています。


わたしはもともとマークの中に「nagi」とは入れたくありませんでした。しかし創業当時「凪」が読めない方も大勢いたのです。「たこ(凧)」と読む人までいました。そこでやむなくローマ字表記を添えたわけです。


「凪」が大宮店を出したとき、実験的に「nagi」を取りました。「凪」の文字をより大きく見せるため、周囲の円を外してみたのですが、そのときに「nagi」も消してしまったのです。これはこれでひとつアリ、という感触を得ました。

「凪」はもちろん漢字ですが、とくに海外の人にとっては謎の模様にしか見えないですよね。だから、文字としてではなく、「形、意匠」として機能すればよいのです。


いずれ「STARBACKS」や「NIKE」のように、すべての「凪」マークから完全に「nagi」をはずしてしまえる日が来るのかもしれません。それが本当の、このデザインの終着点といえます。「凪」が多数出店している台湾やフィリピンのほうが、日本より先に実現されるかもしれない。友達の「顔」は、それだけで自分にとっての証明書ですよね。ロゴデザインも、それ自体がアイデンティティ(自己同一性、身分証明)なのです。


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※〈おことわり〉現在「すごい煮干ラーメン」の店舗(「渋谷東口店」「下北沢店」「大宮東口店」など)に見られる、手書き風のロゴマークは、わたしのデザインではありません。有名な飲食プロデュース会社「パシオ」が、わたしのデザインを元にして制作されたものです。


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