「特級中華そば 凪」ロゴタイプ、看板、暖簾デザイン/2009年10月
すでに終了したブランドですが、「凪」が大きく舵を切ったのが、この「特級中華そば」だと個人的に思っています。実に丁寧な作業の積み重ねで、インパクトよりも料理性の高い一杯を作られていました。当初はドンブリに蓋を乗せて提供したり、店舗に関するデザインをすべて新調するなど、新しい試みをしていました。
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【ロゴ】
その意志・意識は、ロゴデザインにも現れています。ブランドを変えるにあたり、ずっと使っていた基本形を見直すことにしたのです。生田店主のリクエストは「グループを大きくする目標のため、この店舗から『強さ』をプラスしたい」ということ。しかしいたずらにイメージを変えてしまっては基本理念がブレるので、コンセプト自体は以前のものを堅持しつつ調整しました。まず線を可能な限り太くして、力強さをアップ。そして「凪」の文字から思い切って曲線を排除。曲線は「風」を意味していたわけですが、しなやかであると同時に優しくもある。直線のみで構成することで、堂々とした強い意志・潔い姿勢を表現したのです。
そしてこのデザイン(フォルム)がその後、基本のマークとして使われていくことになります。色も同じキンアカですが、この店舗に関しては赤から脱却しました。「豚骨から煮干ラーメンに変わった」ということを視覚的に示したかったのです。バックの濃いブルーは海、ロゴのシルバーは波飛沫や煮干(鰯:イワシ)の銀鱗をイメージさせています。
【看板】
合わせて、看板もデザイン。こちらは「少し老舗感を出したい」というご要望。アイデアのベースに採用したのは、歴史ある醤油蔵や酒蔵のロゴの雰囲気です。まず醤油蔵が多く用いる亀甲を採用。亀甲文は「有職文様(ゆうそくもんよう)」のひとつで、浮線綾、菱文、小葵などとともに、平安時代から公家階級の装束や調度品に使われてきた、日本の伝統的な文様です。
その六角形の中に、煮干の「煮」の字を配した意匠を制作しました。ただし、そのまま渋く・格好良く仕上げたのでは「ラーメン」として面白くない。なにより「凪」らしくありません。
そこでわたしは煮干のシルエットで「煮」の文字を書くことを思いつきました。鰯の煮干そのものをスキャンしてトレース。その組み合わせで制作したのです。下の「よつてん」は煮干の頭です。こんな冗談のようなものでも案外気付かれず、誰からも指摘されませんでしたが、気付いた人はきっと嬉しかったのではないでしょうか。
【暖簾】
同時に暖簾も手掛けました。煮干という文字の配列をドット絵のように見立て、波打つ海を表現したものです。「煮」は「日」の部分を塗り潰して、文字というより〝記号〟に見えるようにしています。
実はこの中にも遊びを仕込みました。煮干の「干」を1文字だけ「王」にしたのです。もちろん「煮干ラーメンの王に」という気持ちからですが、まさか「凪」がその後「煮干王」というブランドを立ち上げるとは予想外でした。店としては「豚王」ができて、そこから「王」つながりでネーミングされたのですから、これは生田さんさえ意図していなかったことでしょう。とても面白い符合でした(この模様は現在、歌舞伎町の店舗(ゴールデン街店別館)の椅子に流用されています)。
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この「特級中華そば」は冒頭に書いたように、仕込みに手間がかかります。その後、社員数の増えた「凪」グループを動かしていくためには個店にばかり偏った力を注ぐわけにはいかなくなりました。やがて現在の「豚王(主に海外展開)」と「すごい煮干」という2ブランドに統合されていくわけですが、「特級中華そば」は味的にも展開的にも、そしてデザイン・ビジュアル面としても、色んな意味で重要なステップであったと思います。
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