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 「ラーメン 凪」丼デザイン/2008年2月


「凪」から新たな丼を作りたいと依頼を受け、2007年の7月頃に着手しました。いつ決定となったのかは定かではないくらい、たくさんの試作デザインが残っていますが、おそらく完成したのはこの時期(2008年2月頃)だと思われます。結局、正式にお披露目となったのはゴールデン街店オープン(2008年6月)くらいでした。


かつてラーメン店の丼は、既製品をそのまま使うか、せいぜい柄のない空きスペースに店名や電話番号を入れるというのが定番スタイル。その後、他店と差別化を図るには「あまり使われていない丼を探す」というのがポピュラーに。実際に90年代創業の店主さんの数人から、そういうお話を伺いました。さらに、ヒットした店を真似て他店が多く使いだし、その丼の生産量が上がる…なんてこともあったようです。2008年当時もオリジナル丼は出始めていましたが、まだまだ珍しかった。


そんな時代の、ゴールデン街・丼のお話。「なにか変わったもの、面白いもの」とだけ依頼されたのですが、丼はラーメンの印象を大きく左右します。それは単に見た目だけではないのです。人間は視覚情報の比重が大きいため、ルックスからの先入観は味覚、味の評価にまで影響を与えてしまいます。食事中ずっと視界に入るものですから、食欲を損ねるほど奇抜なものは避けなくてはなりません。どこかにロゴを入れるか……。ロゴの大きさ、位置、数などを変えてみても、スタイルそのものに新規性はない。どうせ暴れん坊の「凪」がやるのなら、他がやっていないようなデザインにしたい。


最終的に「凪のロゴマークそのものを丼にする」というアイデアを発想しました。シンプルすぎますよね。でも灯台下暗しというのか、コロンブスの卵というのか、こういう案がなかなか出てこなかった。元々このロゴの「◯」は、上から見た丼をイメージしていたのですから、意味的に合致します。どこにでもある「ロゴが入った丼」ではなく「ロゴになっている丼」なのです。スープが入ったときの見映えを考慮し、少しだけ大きめに入れこむことに。「凪」の煮干スープが引き締まって見えるよう、黒地を選択。赤ヴァージョンも作られました。


制作してくださったのは、福岡の「白雅堂」さん。有田焼の陶器などを製作する会社です。チップしにくい(欠けにくい)と評判で、都内でも多くのお店が使用しています。わたしも数多くお願いしていますが、このときが初めての注文でした。


白雅堂の代表・後藤さんに伺ったのですが、この「凪」丼、わかりやすくいうと「白い丼にシールをかぶせて焼く」といった感じで作られています。わたしは「真上から見たときにロゴと同じになるように」とだけオーダー。つまり元のシールはあらかじめ「丼の形状に歪ませて」作らなくてはならないわけです。職人技なのか、コンピュータで割り出すのかわかりませんが、その技術にとても感心してしまいました。赤はシール1枚で仕上がるのですが、黒は透けてしまうので、3度もかぶせているそうです。とても手間がかかった品なのですね。わたしも1つくらい記念に持っていたかった。今では望むべくもありませんが…。


けれどその後、想定外の喜びがありました。ラーメン好き必携の人気漫画「ラーメン大好き小泉さん」第2巻に(店名は伏せつつも)「凪」ゴールデン街店が登場しますが、そのカラーページに、この丼が描かれていたのです。横からのアングルでは、裏側にロゴがはみ出しているところまで描いてあります(表紙には現在使用中の丼や、店内の様子も)。あまりに嬉しかったので、2巻だけは保存用として1冊持っているくらいです。


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©鳴見なる/竹書房

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©鳴見なる/竹書房

また余談ですが、ゴールデン街店の箸は「竹箸」ですね。あれは当初、黒い塗り箸だったのを、わたしが進言して変えてもらいました。箸(箸業界・箸職人)というのは独自の美意識があって、それは素晴らしい思想・技術なのですが、わたしにはどうしても「ラーメンが食べやすい」とは思えないのです。その後はすべての店舗が竹箸に切り替わり、弟子である「ムタヒロ」をはじめ、あちこちに普及していきました。

「小泉さん」では、丼だけでなくその竹箸も克明に描き込んでおられます。いずれも、作者・鳴見なる先生のラーメン愛を感じる部分です。


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「株式会社 凪スピリッツ」オフィシャルサイト

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「ラーメン大好き小泉さん」/竹書房
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アニメ「ラーメン大好き小泉さん」公式サイト